必要な量は、一生同じではない
カルシウムを摂りましょう——よく聞く言葉です。
しかし「どれくらい」の部分は、あまり語られません。実際には、年代や性別、そして体の状態によって、必要とされる量は変わります。
日本には「日本人の食事摂取基準」という公的な基準があり、年代・性別ごとの量が示されています。このページでは、その考え方に沿って、時期ごとに何が起きているのかを見ていきます。
「推奨量」という考え方

食事摂取基準にはいくつかの種類の数字があり、意味が異なります。
- 推定平均必要量——その集団の半数が必要量を満たすと推定される量
- 推奨量——ほとんどの人が必要量を満たすと推定される量
- 目安量——十分な根拠が得られない場合に設定される量
- 耐容上限量——これを超えると過剰摂取による健康への影響のリスクが高まる量
日常でよく引用されるのは推奨量です。「これだけ摂れば足りる人がほとんど」という位置づけの数字であり、必ず摂らなければならない最低ラインという意味ではありません。
また、これは一日単位で完璧に守るための数字というより、ある程度の期間の平均として捉えるものとされています。
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
いまの日本人はどれくらい摂っているか
実際の摂取量を見ると、状況がはっきりします。
厚生労働省の令和6年「国民健康・栄養調査」によると、日本人のカルシウム摂取量は1日平均486mg(男性496mg、女性477mg)です。
一方、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」が示す推奨量は、成人男性でおよそ700〜800mg、成人女性でおよそ600〜650mgとされています。
つまり平均でおよそ150〜300mgほど下回っている状態が、長く続いていることになります。
出典:厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査」/「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
なぜ日本人は不足しやすいのか
平均摂取量が推奨量を下回る状態が長く続いている——その背景には、いくつかの要因が指摘されています。
土壌と水
日本の土壌や水は、ミネラルの含有量が比較的少ないとされています。作物や飲料水から自然に得られる量が、地域によっては限られるという事情です。
硬度の高い水が飲まれている地域では、水からのミネラル摂取が加わります。日本の水道水は軟水が多く、この部分の寄与は小さいとされています。
食生活の変化
かつて日常的に食べられていた小魚、海藻、大豆製品といった食品は、食卓に上る頻度が減ってきたと言われます。
これらはカルシウムを含む食品であり、頻度が下がればそのぶん摂取量も下がります。
吸収の側の事情
カルシウムは、摂った量がそのまま体に取り込まれるわけではありません。吸収される割合は食品によって異なり、また年齢や体の状態によっても変わるとされています。
ビタミンDは吸収に関わる栄養素とされており、日照時間や屋外に出る時間も間接的に関わってきます。
つまり不足しやすさは、一つの原因ではなく複数の条件が重なった結果と考えられています。
成長期——骨がつくられる時期
もっとも必要量が多くなるのは、大人になってからではなく成長期です。
身長が伸びる時期には、骨そのものが大きくなります。材料の需要が一時的に高まるため、推奨量も成人より高く設定されています。
体が大きくなる速さには個人差があり、時期にもずれがあります。数字を厳密に当てはめるより、食事の内容に幅を持たせることが実際的とされています。
子どもの成長については 子どもの成長とカルシウム で詳しく扱います。
20代——骨量がもっとも高くなる時期
骨の量は、20代でもっとも高くなるとされています。
その後は加齢とともに緩やかに変化していくため、この時期に蓄えた量が、その後の推移の出発点になると考えられています。
ところが実際には、この年代は食生活が不規則になりやすい時期でもあります。一人暮らしを始める、仕事が忙しくなる、食事量を意識するようになる——こうした変化が重なります。
とくに、食事量を大きく減らす形の減量は、骨の材料が不足しやすくなると指摘されています。
詳しくは 代謝とダイエットについて知っておきたいこと をご覧ください。
妊娠期・授乳期について
この時期については、一般的な情報でご自身の判断をされないようお願いします。
妊娠中・授乳中の栄養は個別性が高く、体の状態や経過によって考え方が変わります。食事摂取基準のなかでもこの時期の扱いは特別に定められており、版によって扱いが異なる場合もあります。
カルシウムに限らず、この時期に必要な栄養素の量や、摂取を控えたほうがよいものについては、かかりつけの医師や管理栄養士にご相談ください。
当サイトでは、妊娠中・授乳中の方に対して、特定の食品の可否や必要量についての判断はお示ししません。
30〜40代——維持の時期
大きな変化は起きにくい時期ですが、生活の負荷が高くなりやすい年代でもあります。
食事が外食や中食に偏ると、乳製品や小魚、緑黄色野菜、大豆製品といった食品が減りやすくなります。カルシウムはこれらの食品に多く含まれるため、食事の幅が狭くなること自体が、摂取量に効いてきます。
また、この年代は体を動かす機会が減りやすい時期でもあります。骨に負荷がかかることは骨にとって刺激になるとされており、栄養と運動の両面が関わります。
体を動かすとき、筋肉で起きていること もあわせてご覧ください。
閉経前後の変化

女性では、閉経の前後にホルモンの分泌が大きく変わります。
このホルモンは骨の代謝にも関わっているとされており、閉経後に骨量の減り方が変わることが知られています。
これは病気ではなく、多くの女性に起きる生理的な変化です。ただし変化の程度には個人差があるため、気になる場合は骨量の測定を受けるという選択肢があります。
この時期に意識されることが多いのは、次のような点です。
- カルシウムとたんぱく質を確保する
- ビタミンD・ビタミンKなど、骨に関わる栄養素も含めて考える
- 歩く、階段を使うなど、骨に負荷がかかる動きを保つ
- 極端な減量を避ける
骨については 骨密度と骨質 で詳しく扱っています。
高齢期——量そのものが減りやすい
高齢期に起きやすいのは、必要量が増えることではなく、食べる量そのものが減ることです。
食欲の変化、噛む力や飲み込む力の変化、買い物や調理の負担——こうした要因が重なると、食事の量と種類の両方が減りやすくなります。
量が減れば、当然カルシウムの摂取量も減ります。同時にたんぱく質も不足しやすくなり、筋肉量の維持が難しくなるという指摘があります。
吸収の側の変化
加齢とともに、腸からの吸収に関わる働きも変化するとされています。ビタミンDは吸収に関わる栄養素であり、屋外に出る時間が減ることも影響しうると考えられています。
日光・ビタミンDとカルシウムの関係 をご覧ください。
食事量が明らかに減っている、体重が意図せず減っているという場合は、医療機関にご相談ください。
男性の場合
カルシウムや骨の話は女性向けに語られることが多いのですが、男性にも骨量の変化は起きます。
女性のようにホルモンが急激に変わる時期がないぶん、変化は緩やかとされています。ただし、緩やかであっても長い期間で見れば変化は積み重なります。
推奨量は男性のほうが高く設定されています。体格が大きいぶん必要量も多くなるためです。
また、男性は乳製品を摂る量が少ない傾向があるという指摘もあります。
摂りすぎについて
不足の話ばかりしてきましたが、多ければよいというものでもありません。
食事摂取基準には耐容上限量が設定されています。通常の食事だけでこれを超えることは考えにくいとされていますが、サプリメントなどを併用する場合には注意が必要とされています。
また、腎臓の働きに関わる状態がある方や、服薬中の方では、考え方が変わる場合があります。該当する方は主治医にご確認ください。
詳しくは カルシウムイオンの基礎知識 をご覧ください。
どの食品からどれだけ摂れるか
カルシウムを比較的多く含む食品としては、次のようなものが挙げられます。
- 乳製品(牛乳・ヨーグルト・チーズ)
- 小魚(ししゃも・しらす・煮干しなど)
- 大豆製品(豆腐・厚揚げ・納豆)
- 緑黄色野菜(小松菜・チンゲン菜など)
- 海藻類
- ごま、アーモンドなど
乳製品は含有量が多く、量あたりの効率がよいとされています。一方で乳製品が合わない場合もあるため、複数の食品から少しずつ積み上げるという考え方が現実的です。
一日の推奨量を一つの食品でまかなおうとすると無理が出ます。朝に一品、昼に一品、夕に一品——という積み上げのほうが続けやすいと言われます。
一日の食事に置き換えてみる

数字だけを見ても、実感はわきにくいものです。日常の食事に置き換えて考えてみます。
カルシウムを比較的多く含む食品を、いくつか組み合わせる形になります。
- 朝:ヨーグルト、または牛乳をコップ一杯
- 昼:小魚や海藻を含む一品を加える
- 夕:豆腐や厚揚げ、青菜の副菜を一品
- 間食:チーズ、アーモンド、ごまを使ったもの
一つの食品でまかなおうとすると量が多くなりますが、一日のなかで三、四回に分けると無理がありません。
また、吸収には他の栄養素も関わるとされています。ビタミンDやビタミンK、マグネシウムなどが挙げられ、これらは魚類、きのこ類、納豆、緑黄色野菜、海藻などに含まれます。
つまり特定の食品を増やすより、食事の幅を保つほうが結果的に近道という見方ができます。
家族で考えるという視点
推奨量は個人ごとに設定されていますが、食事は多くの場合、家族で共有されています。
成長期の子どもがいる家庭では、その子に必要な量が家庭のなかでもっとも多くなります。一方、高齢の家族がいる場合は、食べやすさの工夫が必要になることもあります。
同じ食卓で必要量が異なるため、全員に同じ量を当てはめる必要はありません。量を調整する、食べやすい形にする、といった対応で足ります。
一人分をつくるとき
一人暮らしでは、食材を使い切れないことから、食事の内容が限られやすいという事情があります。
冷凍できるもの、日持ちするもの、そのまま食べられるもの——こうした食品を組み合わせることで、幅を保ちやすくなると言われます。しらす、納豆、豆腐、チーズ、乾燥わかめなどが挙げられます。
よくある質問
推奨量に足りない日があると問題ですか
一日単位で厳密に守るための数字ではないとされています。ある程度の期間の平均として捉えるものです。ただし、足りない状態が長く続く場合は、食事の内容を見直す目安になります。
牛乳が苦手でも大丈夫ですか
カルシウムを含む食品は乳製品だけではありません。大豆製品、小魚、緑黄色野菜、海藻など、複数の選択肢があります。合わない食品を無理に摂る必要はありません。
サプリメントで補ってもいいですか
食事から足りているかどうかによります。併用する場合は、耐容上限量を超えないように注意が必要とされています。持病がある方、服薬中の方は主治医にご相談ください。
子どもの推奨量は大人より少ないのですか
成長期には、成人より高い推奨量が設定されている年代があります。骨そのものが大きくなる時期であるためです。
妊娠中はどれくらい摂ればいいですか
この点については、当サイトでは判断をお示ししません。妊娠中の栄養は個別性が高いため、かかりつけの医師や管理栄養士にご相談ください。
骨量は測ったほうがいいですか
測定の必要性や時期については、年齢や体の状態によって考え方が変わります。医療機関にご相談ください。自治体の健診で受けられる場合もあります。
まとめ
カルシウムに必要な量は、一生同じではありません。骨がつくられる成長期にもっとも多く必要とされ、その後も時期によって条件が変わります。
日本人の平均摂取量は、推奨量をおよそ150〜300mg下回る状態が続いています。特別に不足している人だけの話ではなく、平均の話だという点に意味があります。
20代は骨量がもっとも高くなる時期、閉経前後は変化が大きい時期、高齢期は食事量そのものが減りやすい時期。それぞれで、意識したい部分が違います。
そして妊娠期・授乳期については、一般的な情報ではなく医師・管理栄養士の判断に委ねてください。
数字を覚えることが目的ではありません。いまの自分がどの時期にいるのかを知ることが、食事を考える出発点になります。
体の状態に気になる点がある場合や、妊娠中・授乳中の方、通院・服薬中の方は、必ず医師にご相談ください。
